大麻物語 シーズン2 13話「危機」

大麻物語

なんども繰り返される大麻取引

なんてことはない。電話の内容は
大麻の取引だった。

Sといると、次から次へと単発で大麻の注文が来ることは珍しく無い。
でも今日は散々待たされた挙句、大口の取引をヤクザ相手に終えたばかりで精神的に疲れている。
できるならば遠慮したいが、僕はこういう時、断ったことはない。
必要とされているのだから届ける義務があると思っていた。

必要数量を確認したら、僕は新阪急ホテルを出て、大麻を工場に取りに行った。
かみさんに電話を入れて、帰りが遅くなることを告げる。
これだけ毎日遅くなる日々が繰り返されているのに、彼女は独りされることに慣れる様子は全くなかった。
彼女はとても寂しがり屋だ。
僕が早く家に帰ろうとする理由の一つに、彼女の存在がある。
彼女がいなければ僕もSと一緒に夜の街を朝までウロついていたかもしれない。

大麻を10gパッキングして工場を出てSにどこに向かえばいいか確認する。
どうやら今度は天六のようだ。
急いでそっちに向かった。
都島の橋を渡ったところで彼に電話を入れると、彼はなぜか難波にいるらしい。

(おい、どないすんねん)

時計はもう2時を回っている。
すぐに天六に向かうから、少し待っててくれという。
天六のネットカフェで待たされること1時間。
3時頃にやっと会えた。

さっさと大麻を渡して家に帰ってきた。
うちでは心配したかみさんが寝ずに待っている。
いつも晩飯の支度をして待ってるのだ。
本当に申し訳ない。
先に寝て待っててくれたらいいのに。
そう思うのだが、それがどうしても出来ないらしい。

大麻ロッカー

こんなことも度々あって、僕はSに大麻を渡す際に、上手くする方法はないものか?
この物理的な物の受け渡しをどうにか安全にしかも省力化できないか考えた末、一計を案じた。

僕はパチンコをやらないが、Sとの待ち合わせによくパチンコ屋に行くようになった。
その時見つけたのが、荷物の一時預かりロッカー。
パスワードロック式で、鍵式ではない。
僕は思いついた。
このロッカーに大麻を入れておいて、ロッカーの位置と暗証番号をSに知らせる。
代わりに金をロッカーに置いておいてもらってあとで僕が取りに行く。
これならSと会う必要がない分、安全にストレスなく取引できる!
そう思ってSに提案してみた。

「ええで!」

快諾してくれた。
それから早速パチンコロッカー作戦が始まった。
昼過ぎにSから連絡が入る。

今日はホワイトウィドウ10gが2つ。
スカンク20g一つ。
これだけ必要らしい。

僕は以前見つけた天六フリーダムのロッカーにネタを入れて早々に戻った。

夜9時くらいにSは取引が完了するらしい。
彼がロッカーに現金を入れたらこちらに連絡が入ることになっている。
僕は家でゆっくり夕食を食べて、彼からの連絡を待った。

21時30分に連絡があった。
『終わったで。XXXのロッカーに売り上げ入れといたで。」
暗証番号を聞いて僕はフリーダムまで車を走らせた。
目的のロッカーを開けるとちゃんと封筒に売り上げが入っていた。

大成功だ!

僕はSに連絡して、代金を受け取ったこと、そして計画通りにやってくれた事に感謝した。
Sも僕の新しい試みに参加して、しかも段取り良くいったことに満足げだ。
そして、僕が喜んでるのを聞いて心なしか嬉しそうだ。
彼も、僕の苦情をただ聞き流してるだけのように見えて、その実、気にして居てくれたようだ。

これからはSに振り回されることなく、新たな大麻栽培と、バッズの営業に専念できそうだ。
Sも僕から文句を言われずに済む。
お互い仕事がやりやすくなる。
それからというもの、時間がある度、大阪の繁華街にあるパチンコ屋に足を運び、暗証番号式のロッカーを探した。

それほど多くはないが、マルハンや123やアローなど大手のパチンコ屋で都心部に店を構えてるところには荷物一時預かりのロッカーがあり、その中のいくつかは暗証番号式だった。

Sの元気な顔を直接拝めないのは寂しいが、これでかなり僕の時間を節約でき、家にも早く帰れる。
最初は安全のために、10や20の取引にのみ使っていたが、最近では100単位の注文も週一のペースである。
Sはきっちりとお金をロッカーに入れておいてくれるので、信用して、100単位の取引もロッカーでやるようになった。

「S最近調子ええな?」
「そうやな」
「ロッカー便利やろう」
「そうやな。便利やな」

僕の喜びをよそにそっけない態度だったが、長い間の悩みが解消されて僕はとても助かった。
会社名義の車で大麻を持って大阪の街でフラフラ時間を潰すことがなくなったからだ。

嗚呼、痛恨のチョンボ

この取引方法もすっかり慣れて一か月ほどした頃、天六フリーダムのロッカーに夜の7時ごろ100g預けることとなった。Sはその日の内に取引を終えて僕に連絡を寄越すはずであったが、約束の時間を過ぎても連絡がこない。
23時になって何の連絡もこない。
(店、閉まったんとちゃうか?ネタどうなったんやろう)
なんども電話したが全く出ない。

弟に事と次第を連絡してしばらくするとSからやっと電話が。
もう午前1時である。
「ごめん。行かれへんかった」
「おい!何いうとんねん!店閉まっとるぞ」
流石に僕はぶちぎれた。
「ネタ、どないしてくれんねん!」
「ごめん!謝るわ」
「ええ加減にしてくれよ!」
そう怒鳴りつけて電話を切った。

明日フリーダムに回収に行かないと。
僕はどうするべきか悩んだ。
100gの大麻を取るか、安全を取るか。

大麻をパッキングした際に指紋などは絶対につけていない。
ロッカーに入れる時も、監視カメラを完全にブロックできているはずだ。
たとえ大麻を押収されても、それが誰のものであるかは特定できるはずがない。

明日行ってみたとして。
朝フリーダムに出向いて、ロッカーにそのまま荷物があるか?
それとも回収されているか?
回収されていたとして、紙袋を開けて、中のシールされた大麻の袋が見つかるか?
開封されたとして、それが大麻だとわかり、警察に通報するか?
様々の可能性が頭の中でぐるぐる回り、その夜は一睡もできなかった。

朝5時ごろ会社に向かった。
事務所にはすでに弟がいて工場の仕事の段取りをしていた。
僕の顔を見るなり。
「おい。どうなっとんねん」

僕は弟に詳しく経緯を説明した。
弟もSに怒ったが僕にも怒った。
だが怒っても仕方ない。

さあどうするか?

まず大麻を取りに行くか諦めるか?
現金にして23万円。
そうおいそれと諦めがつくほどリッチではない。
弟も諦めがつかないようだ。
僕ももちろん同じ気持ちだ。

決死の大麻救出大作戦

天六フリーダムの開店時間は朝10時。
結局、その時間の直前に店に行ってロッカーを確認しようということになった。

もちろん兄弟の協力プレイだ。
作戦を立てた。

お互いブルトゥースヘッドセットをつけて、通話オンのまま店内に突入する。
僕がロッカーを確認し、弟が窓口に向かう。
ロッカーに荷物があれば、回収してて撤収。
なければ弟がフロントにロッカーの荷物を確認する。
フロントに荷物を取りに来ることを想定して、すでに警察が配置されてるとも限らない。
だからその間、僕は店外を偵察して警察の姿を探す。
最悪の事態だが、警察の気配を察知したらインカムで呼びかけて即座に退却。
そういう作戦だ。

工場の仕事の段取りを完全にして、後顧の憂いを立った僕たち兄弟は、二人して天六フリーダムに向かった。

朝9時半。
店の外は何も変わらずいつもの風景の気がした。
この様子では案外ロッカーに荷物が残ってるかもしれないな。

僕は楽観視している。

「なんでこんな危険なことやらなあかんねん!」

いまだにそう僕に愚痴りまくる弟を必死でなだめながら、フリーダムのシャッターの前に並んでいるパチプロ達の姿を眺めていた。

果たして無事ネタはあるのか?
それとも回収されてきちんと預かってくれてるのか?
それとも、大麻とバレて最悪に事態になっているのか?

あと10分もすればそれが明らかになる!

つづく…


この物語はノンフィクションではありません。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。悪しからずご了承ください。

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