大麻物語 シーズン2 7話「麻取ョーシカ大麻工場」

大麻物語

トトロと大麻

当時の開花部屋には、12株植えることのできるプラ舟を13個同時開花していた。
その上には最初から当時最高スペックの1000WのHPSランプでガンガンに照らした。

毎朝、会社に出社すると真っ先に開花部屋に入る。
パンダシートに設えた、ジッパーを開けると、そこは南国の楽園だ。
燦々と照りつけるHPSとサーキュレーターの暖かい風、そして大麻が浄化した新鮮な空気。
あの特徴的な大麻の葉っぱの匂い(バッズの匂いとは違う)を含んだ新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込むと、今日も1日頑張るぞという気になる。

大麻畑に行ったことがある人はお分かりだと思うが、開花していない大麻草にも精神作用がある。
不思議と人をポジティブにさせる。
古来より、赤ちゃんが泣き止まない時には、大麻畑に連れて行ってあやすと、機嫌が良くなるとか、風邪を引いても大麻畑で寝かしておくとすぐ治るとか、そのような言い伝えを聞いたことがある。
僕の場合も、常に自分の仕事に疑問を持っているが、大麻畑で深呼吸すると、不思議とあらゆる憂いが吹っ飛んでしまう。

大麻の生命力というか、成長力というか、その体積を日に日に増加させていくパワーは「となりのトトロ」を見ていただければよくわかると思う。
まさに植物が成長する様はああいう感じだ。
それが実感できるのが大麻栽培といえよう。

水田の稲のように生えそろった大麻の苗に開花ブーストが入ると、物凄い成長を見せる。
システムがRDWCだということもあるが、それこそ目に見える変化だ。

RDWC※Recirculating Deep Water Culture hydroponics system

朝見た光景と、夕方帰る時に見える光景が違う。
明らかに見た目で違う。
少しずつ緑の容積がモコモコと増えているのだ。
本当に素晴らしい。
夜はその葉をだらりと下げてリラックスしている大麻が、HPS1000Wの強力な光を浴びせると、むくむくとその身体を持ち上げ、葉をバンザイさせて、上へ上へと伸びようとしている。
その姿を見るとこちらまで元気になる。

そして開花の様子が面白い。
開花して3週ほど経つと上に伸びる成長速度が遅くなり、枝の分かれ目や、新芽の所に徐々に白い毛が生えてくる。
開花が始まったのだ。
これからの時期、大麻は持てるエネルギーを全てバッズに集中させるのだ。

4週もすると、毛の根元は徐々に膨らみバッズらしきものが目視できるほどになる。
それらがどんどん膨らみを増して色づいてくる。
最初はバラバラに膨らんでいた房が、大きくなるに従って繋がり、写真で見るようなトップコーラとなるのだ。

一概に大麻と言っても、色形香りは品種によって様々だ。
スカンクは黄緑で、オレンジの髭、
ビッグバッズは胚の部分が大仏の螺髪のように大きく膨らみ数珠つなぎになっている。
さらに成熟するにつれて紫がかってくる。とても異様な、毒々しいほどの美しさだ。
ホワイトウィドウは白い粉を吹いて、濃い緑だったバッズがだんだんと白くなってくる。

ホワイトウィドウ

ホワイトウィドウは昨今の高THC品種の魁で、インディカ種のとっても人気の品種だ。

一服吸えばその強力さに皆、椅子から立てなくなるという伝説から、僕はまず最初に購入してマザーに仕立てみたのだが、その種子はハズレだったのか、成長力に少し難があった。
ビッグバッズやスカンクが1メートルに育つ頃、ホワイトウィドウは40センチくらいにしかならない。
葉っぱもスカンクが手のひらをはるかに超えるグローブのような大きさに成長するのに、ホワイトウィドウは赤ちゃんの手のような葉っぱがコンパクトに茂る程度。
健康状態は良かったのだがどこか物足りなかった。

あまり収穫量を見込めないと考え、プラ舟1つ分だけその品種のために場所を使った。
結果はやはり予想通りで、とてもコンパクトなバッズとなってしまった。

そうはいってもやはり1000wのパワー。
地面から直接バッズが生えているような異様な姿に成長した。
そして背が低くてもバッズの大きさはゲンコツのようで、何よりも、花にそして葉にまでまとわりついた、真っ白い樹脂の量がすごかった。
さらに匂いはトイレの芳香剤のようで、その強さは鼻を刺すように強烈だった。

(これを吸ったらさぞかしキマるだろうな)
明らかにそう思わせるオーラを放っていた。

ある時、そのホワイトウィドウをSに売った。
それからSのホワイトウィドウの指名買いが始まった。
それまで品種のことなど何にも知らず、乾燥大麻であれば何でも良かったSが急にホワイトウィドウ指名買いし始めたのには驚いた。

そんなに良かったのか?

ある時、
「何でホワイトウィドウばっかり売れるねん?」
そう聞いたことがあった。

するとSは
「ホワイトウィドウは別格や」
と、そう答えたものだ。

少ししか在庫のないホワイトウィドウが瞬く間に売り切れた後も、彼はしばらくひつこく
「ホワイトウィドウはないの?」
そう聞いてくるのには、いささかうんざりしたこともあった。

でも、もう作らない。
収穫量が少ないからだ。
僕はコマーシャルグロアだ。

金のなる草

ホワイトウィドウをソムリエにも吸ってもらいたかったが、僕は彼らとはもう2度と取引しないつもりだった。
他に買ってるれる人はいくらでもいそうだということが、だんだん分かってきた。
いくら単価が安くても、その時は消費者に直接小売するなんて危険な発想は出てこなかった。

業販はその安全と引き換えに、いくらいいネタを作っても値段は一定だ。
価格交渉は相手が相手だけに色々とめんどうだ。
それならばと、大量生産できる品種にシフトさせる栽培戦略を選んでいたのだ。

ただ、そうはいっても僕の作る大麻が80点のままでは悔しい。
そう思って徐々に品種を増やしていったのであった。
ホワイトウィドウは量産向きではなさそうだ。
だからと言って、収穫量が多いだけのものばかり作るわけにもいかない。
強力で美味しいのに越したことはない。


そうこうしてる間に3回目の収穫が終わった。
正確に量ってはいないがかなりの量だ。
今までの段ボール箱乾燥機で乾燥していたのでは間に合わない。

そこで物置を買った。
工場の裏に物置を組み立てて、中にアメリカから輸入したドライネットを吊り下げた。
そこに例の洗濯物用の除湿乾燥機を入れて、乾燥室に仕上げた。
よし、ここでなら10kgでも乾燥できそうだ。

山盛りのバッズを含んだ枝葉のついた大麻を数日がかりで弟とトリミングした。
この何の変哲も無い植物の花房の部分が、金やプラチナとほぼ同じ価値があると思うととても嬉しくなる。この21世紀の現代に、金のなる木(失礼、草)は現実に存在するのだ。

豊作の大麻をトリミングするのはとても大変だけど楽しい作業だ。
音楽をかけながら、冗談を言い合いながら大麻を綺麗に仕上げていった。
出来上がったゲンコツのようなバッズをネットにコロコロぶちまけて乾燥機のスイッチを入れる。
その作業が終わると、いい仕事をしたなぁって気持ちになるものだ。

日に何回も乾燥状態を確認し、表面がパリパリのちょうどいい状態になったら、無漂白の茶色の紙袋に入れてキュアする。
この表面がカリカリの状態。
一見乾燥しているように見えるバッズだが、内部には相当水分を含んでいる。
それを外に発散させ、水分を均一にするため、紙袋に入れて数日から数週間バッズを休ませるのである。

今はボヴェダのような調湿剤があって、キュアするのがとても簡単になったが、当時のキュアといえば、このブラウンバック方式が主流だった。

ボヴェダを使うと誰でもベストなキュアができるだが、ブラウンバック方式のキュアは経験がないと、なかなか品質の安定したいいバッズが作れなかったものだ。
だとしても、しないよりする方が断然いいバッズに仕上がる。
キュアしていないバッズとしてるバッズでは中身のつまり具合が違う。
キュアしたバッズは、砕いた時にフワフワになり、火の周りがとてもよく、香り豊かで効能も素晴らしい。

この工程を経て、やっと売り物になるシンセミア(種子のないメス株)のバッズが仕上がるのである。

想定内の豊作

できた製品の重量を測ってみた、3kg弱ある。

これはやったな!

もちろん想定内ではあったが、実際に3キロものバッズが8週間ごとに収穫できる体制が整うと僕の思考回路は変化する。
確かな物を手中にすると、全然違うものだ。
3キロのバッズが取れるだろうと思っている時と、3キロのバッズを手にした時とはその感覚は全然違ってくる。

モノには重さも匂いもある。
言うのとやるのには何万光年もの開きがある。

この手の中にあるバッズからスタートした金の計算をしてみる。
いろんな可能性が頭の中を駆け巡る。

とにかく今、大麻は日本国民から必要とされているんだ。
作れば作るだけ売れるはずだ。
物が違法なために、欲しがってる人を探すのが難しいだけだ!
3キロを2か月で売り切ることができたら?
月収およそ350万!

しかも拘束時間なんてほとんどない。
Sにちょこちょこ持っていく手間はあるが、そんなもの仕事ではない。
収穫と植え替えの時期をのぞいては、週一回液肥を補給するくらいだ。
一旦水耕システムを組み上げてしまえば、こんなに手のかからない金のなる草は他に存在しない。
さらに上を目指せる。
ここで満足せずに今すぐ大麻生産設備の増強を検討しよう。

新しい大麻部屋を建設する計画を弟に話した。
僕は何でも先回りして物事を進めがちだが、そんな時大抵弟は反対する。
でも、今回は別だ、常人の金銭価格をはるかに上回るペースで収入が増えている。
弟の感覚も麻痺してしまったのだろう。
いつもとりあえず反対するのだが、今回は一も二もなく賛成した。

マトリョーシカ計画

僕の計画はこうだ。

三階の倉庫の奥にかなりのスペースがあった。
そこに大麻工場を作ろう。
工場の建物の中にマトリョーシカのように大麻工場を建設して、そこを完全閉鎖するのだ。


そして内外の工場関係者には、
「研究設備を作る。
光が入ると中で作ってるものが台無しになるので、念のため施錠しておく。
化学薬品を使っていてとても危険なので、立ち入りを禁止する」
そのようにアナウンスした。

嘘はない。
光が入ると開花周期は乱れるし、肥料には化学物質を含んでおり、大量に摂取したら危険だ。
案外事実を話している。

普段から何かと奇行の目立つ僕のことだから、またおかしなことを始めたものだと、周囲はさして気に止める様子もなかった。

マトリョーシカのような構造にはとても魅力がある。
物理サーバー内にあるバーチャルサーバーのようなものだ。
我ながらナイスなアイデアだと思い、その計画を具体化した。

間取りは大体こういった感じだ。
入り口には24平米ほどのヘッドオフィス兼マザークローンルーム。
奥には70平米ほどの開花ルーム。
プラ舟1レーンあたり10セット4列並べる。
それらを順番に開花させ、2週間ごとに2キロ以上の収穫を目指す。
ここだけで、月4キロ1000万近い収益が見込める。

これだけのものが隠密裏に弟と二人で実現できるのだから、こんな稼業はなかなか他では見つからない。この計画を進めるため大麻の営業活動の傍ら、設計、資材の調達、工事の手配などに勤しんだ。
全く以前の仕事と変わらないのが面白い。
営業販売以外は、工場をしていた当時の仕事とほとんど変わらない。

設備を整え、原料資材を揃えてからいい製品を生産する。
できた製品をできるだけいい条件で購入していただく。
全く同じだ。

違うのは、とても求められている商品を作るということ。
それと、違法だということ。それだけ。
以前の何倍も精力的になって働いたものだ。

工場内にクリーンルームや研究スペースを作ることなどよくあることだ。
頭の中で描いた映像をCADにして、それを業者に発注した。
計画が徐々に具現化していった。

まずは建屋の工事、その後電気水道、最小限の設備をしつらえてもらえれば十分。
残りの細部は全て僕と弟でやった。
そのため、今まで稼いだ金額プラスアルファかかったが、思ったより安く仕上がった。

普段工場をしているので、業者の手配がスムーズにいったことと、当時空前の円高で、ドルが70円台で買えたのが大きかった。

アメリカから毎日のように、ライトを含む大麻栽培グッズが大量に空輸されてきた。
届いた物品を点検して設置する。

小規模の大麻栽培と工場でやる大麻栽培は根本的に違う。
一番問題になるのは電気だ。
使用する電力が大きいので電気についての常識的な知識がないと危険だ。
また、大量のライトを一斉にオンオフするために、リレー回路などが必要になる。
綿密に計算して資材を揃え組み立てと配線工事をせっせと行った。

使う水の量も膨大だ。
400kgのタンクを三個買った。
そこから、大規模なRDWCの気が遠くなるような配管作業。
それらを仕上げて、クローン用ラックの設置、ライトの設置、換気設備など計画通りに進み、
マトリョーシカ大麻工場はついに完成した。

ここからがまた大変だ。
下の階の大麻部屋から大麻のマザーを運び込まないとならない。
工場は24時間操業してるので、運び込むタイミングが難しい。
大麻を従業員などの工場関係者に見られるわけにはいかない。
僕が見張りに立って弟がせっせと大麻の鉢をマトリョーシカ工場に運び入れた。
従業員がくると、あらかじめ決められた合言葉を叫んで弟に注意を促す。
従業員が来たのを見た僕が大声で叫ぶと、弟はあたふたと大麻の親株持って、元来た部屋に逃げ帰る。
それは第三者から見ると全く異常で滑稽な光景だっただろう。

親株を全て運び入れてやっと準備が整った。
EZーCLONE128とTURBO KLONE144の二つのクローンマシーンに、200本近い挿し木を差し込んで、僕と弟はマトリョーシカ工場の処女生産に備えた。

つづく

大麻物語は物語です。ノンフィクションではありません。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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