大麻物語 シーズン1 第9話 「プッシャーS 前編」

大麻物語

再入電

帰り道、たった2万3千円の売上で、尼崎までの往復ガソリン代や高速料金で経費が嵩むなぁなどと、セコイことを考えながらハイエースのハンドルを握っていました。

連絡のつく売り先は二つに増えましたが、大量の在庫を抱えて気が焦ります。

当初想像していた取引の姿は、

信頼できるプロフェッショナルなバイヤーにキロ単位でサクッと綺麗に取引する。

そういう映画のワンシーンのようなスマートな姿です。

目ぼしいところには全て営業メールを出しました。

他のプッシャ達からの連絡を待つしかありません。

阪神高速東大阪線に入ったところで、

飛ばしがブルル…

先ほど別れたばかりのSからです。

「今から肥後橋のアパホテルこれる?」

(!)

(もう次の取引か)

相変わらず話が早いです。

彼のこういうところが好きです。

「行けますよ」

もちろん即答します。

「ほな、10頼むわ」

(なんや、また10か…)

「わかりました。せやけどネタを取りに戻らなあかんから、21時過ぎになりますよ」

少し恨みがましく言って電話を切りました。

奈良の工場に戻ってネタを用意して、堂島まで戻ることになりました。

たったの10とはいえ、23,000円は当時の僕の金銭感覚からすると決して少なくありません。

(家に帰んの、遅なるなぁ)

普段は従業員を送迎して、決まって毎日20時半前後に帰宅していたのでした。

(かみさんが心配するので連絡しよう)

「仕事で遅なるわ10時ごろになるかもしれん」

「うんわかった。今日はおでんやから遅くなっても大丈夫やで、気つけてな」

かみさんのおでんは大好物です。

かなり後ろめたい気持ちになりました。

手っ取り早く済ましてとっととうちに帰ろう。

空いている阪神高速をぶっ飛ばして、あっという間に工場に戻りました。

誰にも見られたくないので。泥棒のように工場にコソコソ入って行きました。

見慣れた工場の景色がいつもと違ったものとして目に移りました。

もはや僕はここの一員ではありません。

途中従業員のMくんにすれ違い挨拶されました。

「遅くまでお疲れ様です」

彼らはこれから夜通し働いて一万円あまりの血と汗と涙の結晶を稼ぎ出すのです。

僕は尼崎、そしてこれから肥後橋と車を飛ばして帰ってくるだけで合計46,000円の現金が手に入るのです。

さっきまでは経費がかかるなぁとかコシャな取引やのうとか散々に思っていましたが、M君を見てなんだか自分という人間がとてもいやらしい人間に感じられ、彼のことをまっすぐに見れませんでした。

忙しそうに振舞いながら、「お疲れさん」と目を合わせずに言って、彼をやり過ごしました。

普段通りに操業している工場を尻目に、階段を急いで駆け上がり、栽培ルームに向かいました。

ネタを冷蔵庫から取りだし、スケールで10g量り、真空パック機で匂いが漏れないようシールしたものをコンビニの袋にお菓子などと一緒に放り込みました。

なにしろ大阪市内に、なおかつ都心部に大麻を配達するのは初めての経験です。

コンビニの袋を持ってアパホテルに入るのはごくありふれた光景だろうと想像して、この方法で運ぼうと考えたのです。

ホテルに向かうので私服に着替え、準備を整えてから工場を後にしました。

シャブを打つS

またもや阪神高速。奈良から大阪にとんぼ返りです。

予定どおり21時すぎにアパホテル近くのタイムズに車を止め、

仕事帰りのリーマンのつもりでアパホテルへと歩く道すがら、彼に連絡しました。

「ホテルの裏に黒いワンボックスが止まってるやろ?その中におるから」

彼の車を発見しました。

(えらいとこに停めとんなぁ)

しかも、カーテンのかかっている汚いワンボックスです。

僕が警察なら真っ先に職質するでしょう。

とはいえここまできてそのまま帰るのもアホらしいです。

さっさとネタを渡してバイバイしようと車の中に入りました。

ところが彼は僕を車に招き入れると、少し待ってくれと言うのです。

何考えとんねん!こんなとこにこんな車を違法駐車して、めちゃめちゃデンジャラスやんけ!と僕が抗議しても、彼は「いけるいける」と笑って取り合ってくれません。

しかもその後、彼はポーチから白い粉が入ったパケ(ネタを入れるビニールの小袋)と注射器を取り出しました。

「おい、何すんねん!」

Sは僕の抗議を無視しして、南アルプス天然水のペットボトルのキャップに水を入れると、ストローを短く斜めに切ったサジのような物でパケに入ったシャブの結晶をすくいはじめました。

それを慎重に細いペンのような注射器のシリンダーの中にサラサラと注ぎ込むのです。

さらにポンプの柄をシリンダーに差し込み、ジャリジャリ押しつぶしたあと、メモリで容量を確認していました。

シャブの量に満足したSは、注射針の先端を水の入ったペットボトルのキャップに突っ込んで、ポンプを引き天然水を注射器の中に吸い込ませています。

わずかな水を吸い込ませた後、またメモリを確認しました。

メモリを満足げに確認したSは、今までの工程で入ってしまった余分な空気を抜くために、針を上に向け指で注射器をピンピンと弾いて気泡をシリンダー上部に集めます。

気泡が集まってシリンダー上部にわずかな空気の層ができました。

彼はその空気の層をポンプで押し出しました。

空気だけではなく、針の先からシャブの雫もほんの少し飛びます。

勿体無いですね。

シリンダー内は完全にシャブと水だけとなりました。

「空気が血管に入ったら屁が止まらんからな」

そんな冗談とも本気ともわからないことを話しながら、

Sは拳骨のゴツゴツしたところに注射器を激しく擦り付け、ゴリゴリ動かしています。

どうやら振動で水と覚醒剤を溶かしているようです。

(あんな少量の水であれだけの粉末が溶けんのか。シャブ、めっちゃ水溶性やな)

などと場違いなことを考えてついつい見とれていました。

しばらくゴリゴリ擦っていたSは、シャブが完全に水に溶け込んだことを確認すると、待ちきれない様子で腕を捲り上げました。

ヒジ関節の裏のあたりに無数の注射痕があります。

器用に人差し指と中指をポンプの柄に引っ掛け、片手で注射器をぶっ刺しました。

そして親指でポンプの柄をグッと引きます。

柄を引っ張っても血が入ってきません。

柄から指を離すと、真空になったシリンダーにピストンが吸い込まれていきました。

血管にちゃんと刺さっていないようです。

焦ったそうに、Sは針をさらに深く突き刺し、またもや親指でポンプの柄を引きました。

今度は血管に上手く針が刺さったようで、血が注射器の中に逆流してきています。

次に引っ張った柄を逆方向に押し込み、彼の体内に覚醒剤は流れ込んで行きました。

至福の時が彼には流れているのでしょう。

普段では考えられない、穏やかな空気を彼から感じました。

その静かな時間も束の間。

彼は次第に汗まみれになって、不自然に活力が戻った声で言いました。

「よっしゃ!それもらうわ、ここでちょっと待ってて」

そういって僕がぶら下げている、大麻の入ったファミマの袋を掴んで出て行こうとしました。

(こいつ、滅茶苦茶やな〜。客待たしてこんなところでシャブ打ってからに)

そう思いましたが乗りかかった船です。僕はここで待つことにしました。

「おい!どれくらいで戻ってくんねん」

「ちょっと」

僕は観念して彼を送り出しました。

今から振り返って当時のことを考えると、『なんでこんな危険なことを』と思いますが、金のためだけではありません。

今まで平々凡々と幸せに暮らしてきた僕のなんと言うか、眠れる冒険心というか、とにかく知らない世界を見てみたい。そんな気持ちを抑えることができませんでした。

(こいつはヤバいなぁ。こんな奴と一緒におったら確実にパクられるで)

そう思いながらも、その場にいる選択をしたのは紛れもなく僕自身でした。

Sとの乾杯

20分ほどでしょうか。とても長く感じられたので、10分くらいかもしれません。

やっと彼が戻ってきました。

そして僕に現金23,000円を渡すと、二人で車から降りようと言うのです。

カミさんが待ってるからと、僕は帰ろうとしましたが彼が僕を誘います。

「ええやん。ちょっと来てーな」

彼はアパホテルに入って行きました。

(早く家に帰っておでんを食べたいなぁ)そう思いつつも好奇心には抗えません。

ノコノコSの後について行きました。

Sと一緒にアパホテルの客室内へ。

ビジネスホテルなどと言うものにはあまり泊まった経験がありません。

初めて見るその室内をつぶさに観察しました。

小綺麗で清潔ですが、どこか頑張っているケバケバしさを感じます。

狭い室内にそぐわない大画面液晶。

ベッドの上にはトランク。

そして散乱した私物。

よくよく見ると、注射器やパケ、スケールなどプッシャの商売道具でした。

注射器とパケは見るからに禍々しい雰囲気です。

それから4個の携帯電話。メモらしきもの。

あとは洋服類。

そしてコンビニATMから拝借したのであろう大量の現金用封筒。

そしてその横には、お札が裸で置かれていました。

それらの物品類がまるでトランクから溢れ出てきたかのように。

ベッドの上に吐き出されていました。

ただそれが、アパホテルの派手な室内装飾になぜかしっくりとくる光景として今でも脳裏に焼き付いています。

Sは手荷物をベッドの上に投げ捨てたあと、ダミエのアクロバット一つだけひっ掴んで部屋を出て行きました。

僕は彼について行きます。

(今度はこいつどこいくねん)エレベーターに乗り込むと、Sは最上階のボタンを押しました。

目的地はこのホテルのメインダイニングのベトナム料理店です。

フランス、イタリア料理店でないところがアパホテルらしくてユニークですね。

どうやら彼なりに僕を歓迎してくれているのでしょう。

物騒な彼とは出来るだけ早くバイバイしたいところですが、彼の気持ちを無下にすることはできません。

Sは入り口の店員の制止も聞かずにズカズカと勝手に店内に雪崩れ込むと、案内される席を無視して好きなテーブルに勝手に腰掛けてしまいました。

幸い店内には先客がいませんでしたが(やめてくれようS)そう思いながらも彼の後をついて行くしかありません。

席に着くなりSはウエイトレスに、これまたとても横柄な態度で「おーい」と呼びかけます。

びっくりして駆け寄ってきた彼女に「ビールちょうだい」と一言。

彼は言葉を面倒そうに、それこそ吐き捨てるように喋るのです。

その言葉は滑舌が悪くとても聞きづらいのです。

しかもびっくりしすぎてキョトンとしているのでしょう。

ちゃんと注文を聞いていなかったようで、彼女は聞き返しました。

彼はキレて「ビール持ってこいいうとんねん!」

驚いている彼女に助け舟を出すつもりで、僕は苦虫を噛み潰しつつも、にやけた面で丁重にオレンジジュースを頼みました。

僕はこいつと友達ではありませんよと必死でアピールしたつもりですが、判ってくれたでしょうか?

なんとも居心地の悪い店内です。

それでも、最上階から望む大阪の夜景は絶景でした。

それを見てさらにテンションの上がった彼はいきなり大声で絶叫。

「天下取ったるで〜!」

(こいつは真のキチガイや)そう思いながらも、

どこか憎めない彼のそばで居心地悪く縮こまっていたのでした。

つづく…

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