大麻物語 シーズン2 9話「運び屋」

大麻物語

毎朝の業務

毎朝、出社する楽しみがまた一つ増えた。

k堂からの注文メールが、毎朝届くからだ。

注文メールといっても、注文の無い日も欠かさずに届く。

その辺りがとても律儀で信頼の置けるところだ。


まずはk堂からの簡単な挨拶。

ここにはk堂の近況などが記されている。

季節ごとの出荷見込みや、顧客の好み、今後の展望など。

彼が深く考察した結果や今後の見込みなどを挨拶文と共によこしてくれる。

それに対して、こちらもマーケティングや開花予定の品種、そして乾燥バッズ以外の商品の品揃えについてなど、様々に提案させていただくこともある。

その提案が採用されて今後の方針が決まったこともあり、合理的で理解力のあるk堂とのメールのやり取りはとても心地よい。


その挨拶文の後に、本題である本日の注文内容が続く。

記されているのは、発送先顧客の個人情報、品種、数量、金額などのデータの一覧。

僕らは、といってもほとんど弟が、それらのデータを元にバッズをスケールで正確に量り、所定の方法で丁寧に梱包していくのである。

話は逸れるが、僕たちの秤は、もともと工業製品の品質管理に使っていた、秤で有名なA&Dと、今では大麻の分析でもおなじみの島津製作所の高級モデルだ。

精密な工業部品を計測するような用途に使われるもので、少しの風が吹くだけで、デジタル表示がぶれるような精密なもので、ISOの絡みで年一回校正検査もしていたので、正確に重量を量れた。

その秤で、バッズの重量に関してはとても気を使って、しかも5%ほど多めに梱包したものだ。

それでも少ないと言われるようなトラブルは稀に起こる。

バッズを大量生産しているので、行き届かない事もあって、ネタにバラツキがあるからだ。

枝が多めだったり、リーフの取り残しが多かったりするともある。

そんな時に少しでも多めに入れとけばトラブルも減らせるだろうと、多目に入れておいた。

よく買ってくれる方には、k堂に内緒で、新しい品種のサンプルをおまけしたり、自家製のバブルハッシュをサービスしたりもした。

顧客一人一人の顔を見れない分、精一杯満足してもらおうと日々僕らなりに心を尽くしたわけだ。


k堂の顧客は普通のネット通販の顧客以上にモラルが高く、k堂がたまにフィードバックしてくれるユーザーの声や、WEBサイトに書き込まれているk堂関連スレッドを読むと、クレームより、圧倒的に励ましと感謝の声が多かった。

「危険を冒して、私のために大麻を届けてくれてありがとうございます」

そう言われているような気すらした。

また、

「大麻の供給が途絶えると困ります。他に安心して購入できる所を知りません。どうかご無事にお続けください」

このような声も多かった。

このような顧客のポジティブな思いを、日ごろから感じていたので、後ろめたい気持ちでブラックな仕事をしていた僕たちも救われた。

マザープランツとクローンに囲まれた大麻工場事務所で、弟とつくづく、

「客がk堂だけになったらええのになぁ」

とよく話していたものだ。


できることならk堂に一本化したいところだったが、k堂も発足したばかりだったので、顧客はまだまだ少なく、とても僕達の生産した大麻を、全て消費できるようなレベルには達していなかった。

何度かk堂に、広告を拡大して顧客をもっと幅広く獲得するよう進言したものだが、慎重で思慮深い彼は自身のペースを堅持した。

結果的にそれが良かったのだと思う。

彼のほとんどの顧客はいつも素晴らしく礼儀正しいし、知りうる限り、誰もパクられることもなく何年もリピートしてくれた。

そして、その評判は日増しに高まり、少しづつではあるけれども、着実に右肩上がりにファンを増やして行くことになった。

k堂の販売価格

k堂に対する卸値は安くてもg3,000円以上で平均4,000円前後にもなる。

k堂がユーザーに販売している価格を僕たちは彼から直接聞いていないし、訪ねてもいないが(暗黙の了解だ)だいたい4,000〜6,000円であろう。

それはサイト検索してk堂のスレを見ればおおよそわかる。

k堂と僕たちは完全にウィンウィンの関係だ。

Sなどの仲買人プッシャに譲るよりはk堂の顧客に発送する方がよっぽど効率がいい。

毎日の発送作業など、僕らにとってはお手の物だ。

k堂も僕たちと関係を歓迎していたに違いない。

そう確信している。

1g〜10gで購入する顧客がほとんどなので、毎朝、注文メールを見ながら、バッズを小分け計量し、梱包して発送する細かい作業だが、真夜中に大阪の市街地に現物を持って行くよりはよほど気楽な作業だ。

「北海道の〜さん。めっちゃスカンクを気に入ってるな〜」とか

「沖縄の〜さん。最近注文ないなぁ」とか

「奈良の〜さん。近所やな。まさかここで作ってるとは思わんやろうなぁ」とか、

毎朝笑いながら楽しく出荷作業を行なえた。

一つの封筒が何万円もの売り上げになると思えば自然と笑みがこぼれるものだ。

k堂からの初めての送金

k堂との取引が始まって、2週間近く経過した。

だが、まだ僕たちは一円も受け取っていなかったのである。

彼からは毎日注文メールが届く。そしてその文末には、僕たちが現在彼に預けている金額と、彼がその何%ほど換金できているのかという進捗状況が書かれている。

そのころには累計数十万円にも達して、正直心中穏やかではない。

普通の仕事ではこんなことは当たり前のことなのだが、この世界はそうではない。


早く現金を発送してもらいたいと思っていたある日、

「換金できましたので発送しました」

と待ちに待ったメールが彼から来た。


到着予定当日。
お金が例の私設私書箱に届いているのを確かめるとすぐに難波に取りに行った。

彼からの封筒を受け取ると、急いで階段を降り、ビル前に違法駐車しているハイエースに急いで飛び乗った。

すぐに車を発車させて、運転しながら封筒取り出す。

ハサミを使うのももどかしく、手で封をビリビリと破り裂いて開封した。

中を覗くと何冊かのフリーペーパー。

それらパラパラとめくって、遂に分厚い現金を見つけた。

ちょうど湊町南交差点の信号に引っかかった。

そのタイミングで素早く札束をパラパラと数え、金額が間違いないことを確認して、やっと安堵した。

これでk堂に対する不安要素は全てなくなった。

僕はアクセルを踏み、湊町の入り口から阪神高速環状線に向かってグルグル回る道を運転しながら弟に電話をかけ、無事金を受け取ったことを話してやった。

当初の出荷量

スタートした当初、k堂に対する出荷量は毎月数百グラムほどでしかない。

単価が高いので、それでも売り上げに貢献してくれたが、毎月キロ単位で出荷できるのに、それでは物足りない。

再三再四、k堂に事業拡大を訴えたが、先ほども述べたように聞き届けられることはなかった。

かくなるうえは、少しでも多くのプッシャを商売相手としてバッズを販売しなければ…。


決意を新たにして、2ちゃんねるを含めた掲示板の、めぼしい業者に対して営業を続けた。

いくつかのアタックと空振りを重ねた末、今回も好感触なディーラーが見つかる。

こんどは横浜の業者だ。

かなり遠いが行ってみる価値はありそうだ。

物が良ければ2,300円で引き取ってくれるらしい。

段取りがついたのでサンプルと商品を持って新横浜まで出向くことになった。

今回は遠路はるばる新横浜まで出向くので、サンプルがよければすぐ商品を買ってもらう。

商談が成立すれば、ビッグバッズ100gとスカンク100gを@2,300円で計46万円のお買い上げとなる。

往復2万円以上の交通費がかかるが、それだけバッズが捌けるのだ。

まぁ悪くないと思う。


気になるのは新幹線による長距離輸送だが、匂いについては、真空パック機やシーラーで入口の封を熱で圧着すれば全く心配ない。

スーツでビジネスマンのふりをしていけば、道中危険なこともないだろうと見当を付けて、わざわざ新幹線に乗って関東に遠征することになった。

関東遠征

朝早く車で出かけた。

ちょうど通勤ラッシュの時間に新大阪に到着、駅近くのパーキングに駐車して車から降りる。

今日も爽やかないい天気だ!新幹線のホームを目指して颯爽と早足で向かった。

ホームに到着して周辺を見回す。

(よし。どっからどう見ても普通のサラリーマンに見えるな。完璧にステルスできている)


「運び屋」とはこんな感じなのかな。

スーツで武装して、バッズがいっぱいのアタッシュケースを持って新幹線に乗り込むとき、ふとそう感じて笑いを噛み殺した。

見慣れた光景も、自分の立場が変わればその姿は一変する!


新横浜に到着した後、在来線に乗り換え一駅行ったところで下車した。

取引相手指定の、駅近くのとある喫茶店に入り、彼らからの連絡を待った。

もちろん約束の時間より早めに到着して周辺を偵察している。


すると、30前後のカジュアルな服装の3人が入ってきた。

少し暑くなりかけてきた日だったので、アイスコーヒーを飲んでいた僕は視線を合わせて合図をした。

すると向こうはすぐに気づいたようで、

「連絡をくれた人ですか?わざわざ関西からここまで来て頂いてありがとうございます」

(感じのいい人たちだ)

僕は立ち上がって彼らを迎え入れ、一緒の席に着いた。

一番若くて細面の人がリーダーのようだ。

そしてメガネの真面目そうな人、その隣に大きな体のマスク、以上の計3人だ。

事前のやり取りでは、半グレっぽいイメージであったのだが、見た目は全くその様な感じはなかった。


栽培のことをとても好意的に受け取っているようで、興味を持って質問されたので、僕はいささか得意げに、僕の作る大麻は大阪で好評を得ているというところまで、聞かれもしないのに調子に乗って話してしまった。

その後、兼ねてからの打ち合わせ通り、マスクをした人に大麻のサンプルを手渡した。

テイスティングタイムだ。

どうやらマスクの人が彼らの中のソムリエ格だったようだ。彼はネタを持って店の外に出て行った。


ソムリエが試飲している時間を利用して、僕はリーダー格の男に色々な話を聞いた。

彼はどうやらパチンコのゴト師グルーブを束ねているらしく、そのシノギ(違法な稼ぎ方)で荒稼ぎしている様だ。

店員とグルになって、パチンコ台を細工し、客を派遣して大量に店から出玉を騙し取るのだという。

いろんな稼ぎ方があったものだ。

ただびっくりすることに、彼らはそれでなんと何千万円も稼いでいるという。

利権の温床、余計なお世話=法律

いろんな稼ぎ方があるものだ。

もちろんゴト行為は違法なのだろうが、ご立派な法律でギャンブルが違法にも関わらず、堂々と営業できているパチンコ店に対して働く詐欺行為ということで、このシノギに手を出している人達には罪悪感が芽生えにくいのであろう。

法律がデタラメなために、あらゆるところでアウトロー達に付け込まれる。

彼らの抜いた分は一般のパチンコプレイヤーから搾取されて穴埋めされるのだろう。

薬物依存症とは比べ物にならないほど中毒性の高い、ギャンブル依存症にさせられた上、ケツの毛まで抜き取られ、本当に気の毒な話だ。


ギャンブルでオケラになって行き着く所の一つは刑務所。

そのお昼の休憩時間。

せっかくありがたい矯正施設に無料で入れてもらっているのに、必ず毎日パチンコの話で盛り上がるグループがあった。

いくら盛り上がっても刑務所ではパチンコができないのに。

出所してまたパチンコをやると、負のサイクルから抜けられないのに。

彼らにとって至上の楽しみがパチンコなのだ。

受刑者には明らかにギャンブル依存症率が多い。

ギャンブルに限ったことではないが、とにかく依存症の罹患率が高いのだ。

なぜ受刑者に依存症が多いか考えてみるといい。

デストピア日本。こんな状況でさらにカジノ?

一体政府は何をやってるのだろう。

日本の法律は、筋の通らないことが多すぎる。

大麻が違法でパチンコが適法というところは、全くおかしい。

人を中心に据えるのであれば、これらの法律は完全に道理から外れている。

それじゃ全部禁止してしまえばいいか?

いや、それは全く逆効果だ。

理由は3つ。

禁止が多いと役人が抜け道を作って利権が育つから。

(ハイ今の日本です。さらに悪いことに、当の本人達には罪の意識はありません)

アウトローに凌ぐ場所を提供するから。(有能な人材の浪費)

そして、禁止を維持するコストに国家の資源を割くぐらいなら、教育に力を入れるべきだから。

大人だったら、自分で稼いだ金でギャンブルや薬物や酒を飲んで気晴らしをしても当人の勝手だ。

国から言われる筋合いはない。

禁止などしても全く無意味だし無力だ。

やる人はだれが何と言おうとやる!

国がかろうじてできることは、金を持っている国民から集金して、そのお金を教育に投資することだけ。

教育を通して、子供の頃から自分を大切にすることを教えることだけだ。

現状、政府はほとんどその機能を果たしていない。

特に日本政府は奴隷を製造するために教育があると勘違いしているようだ。

英国数理社よりも人間の在り方が重要なんではないのか。

自分を尊重して、自分で考える人間が日本では育たない。

出来上がった大人になんでも禁止して、「はいさよなら」では税金泥棒だ。職務放棄だ。

「ダメ絶対」から、「自分を大切に」にスローガンを変えると日本はもっとカッコイイ国になる。

やばいシノギを目にしても、僕は犯罪者を責める気にはならない。

たくさんの人間の中から、その人と知り合ったからだ。

目の前にいる人とテレビに映っている人は全く違う。

笑いも泣きもする。そんな人を否定する気にはなれない。

むしろ彼らは実行力があり、情熱のある有望な人材なのだ。

k堂も、ゴトのリーダーも、Sも、そして僕も。

明後日の方向に血道を上げて、取り締まったり、取り締まりを逃れたり、利権を守ったり、ズルをしたり、人を騙したり騙されたり、飽きずにそんなことばかりしている。

有望な人的資源が虚しく浪費されている日本社会に無性に苛立つ。

横浜の顧客

僕が興味津々にリーダー格である細面の彼の話を聞いていると、マスクをしたソムリエが目を真っ赤にして帰ってきた。


細面のリーダーが彼に結果を訪ねた。

彼は少しフラフラになりながら首を大きく縦に振った。

どうやら僕の持ってきたブツは合格したようだ。

細面のリーダーは少し面白がって、完全に大麻の影響下に入ってしまったマスクの男をからかい、それを受けたマスクの男はフラフラになりながらも笑っていた。

そしてリーダーは

「とてもいいネタの様でよかったです。あなたの様に自分で大麻を栽培されている方を探していたのです」

そう行って分厚い封筒を手渡してくれた。

求められているというのは嬉しいことだ。

やはり日本人に大麻が必要なのだ。

僕はブリーフケースから2種類のバッズの入った大きな紙袋を手渡し、礼を言ってその場を立ち去った。


せっかく新横浜まで来たのだから、中華街に行って点心でもつまんで帰りたいところだが長居は禁物だ。

かみさんへのお土産に崎陽軒のシウマイだけ買うと、すぐに新幹線に飛び乗った。

空いている席を素早く見つけ、シートに深く腰を埋めて落ち着くと、それを待っていたかのように車両がゆっくりと動き出した。

すぐに暴力的な速度にまで加速したスーパーエクスプレスは、あっという間に都会を抜けて山間部に突入した。

田園風景とトンネルが激しく入れ替わる。

僕の日常のようにめまぐるしく移り変る車窓から一旦目をそらし、今日の日を振り返った。

安心して取引できそうな上客を見つけたこと、そして僕の収穫物にまたもや満足してくれたことを思い返し、そして何より懐が暖かいので、とても満ち足りた気分になった。

再び車窓に目をやると、僕の乗った「のぞみ」はいつの間にか開けた平野部を走っていた。

その奥には、ありえない大きさの富士山がそびえ立ち、静かにこちらを見つめていた。

つづく…

この物語はノンフィクションではありません。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。悪しからずご了承ください。

この記事を書いた人