
大麻の卸値
当面のメインミッションは3キロの大麻を売りさばくことだ。
でも、以前のように1600円で売るわけにはいかない。
なんでか?
それでは以下の式を見ていただこう。
単価1,600円(で売った場合)X3,000g=4,800,000円
単価2,300円(で売った場合)X3,000g=6,900,000円
その差なんと2,100,000円!
大麻の単価の700円の違いがどれほど違うかお判りいただけただろうか?
僕が以前信濃橋で取引した人とは、もう二度と取引すまいと思った理由がお判りいただけたことだと思う。
在庫があっても安売りはしたくないので、しばらくSや長瀬君にちまちま大麻を売って糊口をしのいでいた。
光るカキコ
ただその間もネットで仲買人を探していたわけであるが、なかなかこれという仲買人が見つからない。
そんな中、2ちゃんねる薬板で異彩を放つ書き込みを見つけた。
インターネット通販でお金を振り込んだのに物が送ってこない。
やっと商品が送られてきたと思ったら、クラッシュ済みのくそネタだった。
もうネット通販はこりごりだ、多少のリスクを犯しても末端のプッシャから手渡しで大麻を買おう!
そう思って街に出かけたら、職質にあって逮捕されてしまった。
そのような方達に最終的なソリューションを提供します。
これまで散々苦労された方、骨を折ってこられた方々にこそご愛顧いただきたい。
そういう心でK堂(ホ◯オリドウ)と屋号を定めました。
詳細は忘れてしまったがそういった内容の書き込みであった。
僕は
(これはっ!)
みた瞬間そう思った。
文面から放たれるオーラが凄い。
よくある、2ちゃんねるのあのダラダラした文章ではなかった。
さらに読み進める。
私たちは、顧客の安全を第一に、たとえ相手がマトリであっても安全なシステムを築き上げました。
当店は全ての通信にオニオンルーターを使います。
TOR
なに?おにおんるーたー?
皆さんはオニオンルーターという言葉をご存知であろうか?
剥いても剥いても芯に辿り着けない玉ねぎからヒントを得て作られたシステムで、TORといえばより一般的であろう。
TORなら知ってる方も多いと思う。
でもこの時は、まだTORという言葉は一般的ではなかった。
遠隔操作事件で、なりすまし誤認逮捕が発覚してからTORは有名になった。
あの事件があってから一般にTORという言葉が広がったと認識している。
ネットに接続すると、明確に足跡が残る。
間抜けなサイバー犯罪者が簡単に逮捕されるのは、足跡であるIPアドレスのせいだ。
どのルーターや端末から接続さえれているかは、この世界にだだ一つのユニークなナンバーであるIPアドレスから簡単に判明してしまう。
それは、サーバーのログ(記録)にアクセス履歴が全て載っているからだ。
警察はサーバーを管理している会社に電話してログを提出させる。
もちろん電話一本でログを提出しない運営会社もあるだろうが、例えばTポイントカードやラインなどは、犬のように尻尾を振って個人情報を警察や政府に提出する。その見返りがおそらくあるのであろう。
とにかく日本の会社のほとんどは、警察権力や国家権力をちらつかせれば、電話一本で顧客のIPアドレスを提出する。そのIPアドレスをプロバイダに電話で照会すると、どの携帯電話、もしくは家から発信されたアクセスか特定できる。プロバイダもおそらく既得権益万歳の商売だ。国家権力を敵に回しては商売上ったりだ。すぐに顧客情報を提出するだろう。
そうすると簡単に犯人が特定できる。
かかるコストは電話代だけだ。
こういう簡単に犯人を特定できる案件が、警察は特に大好きなのだ。
簡単ポイントが稼げる美味しい案件だ。よって優先的に片付けられる。
電話で済んでしまうからだ。
令状を取ってガサを入れなければならないようなパターンだと、確実に被疑者を立件できるような案件でないとなかなか踏み出せない。
空振りだったら怒られる。
電話で済むのだから、リスクは少ない。
だから、安易なインターネット犯罪はすぐに挙げられるのである。
ただ、それは何の偽装もされていないIPアドレスの場合だ。
例のTORを通すとIPアドレスは容易には暴けない。
このTOR、アメリカ国防省が開発し、世界中のテロリストやアクティビスト愛用されている。
迫害を受けているマイノリティが強権的な政府機関から身元を隠すシステムだ。
当時Aviraというブラウザ(サイトを見るアプリ)があった。それを使ってネットする限り、自動的に適切な世TORサーバーが選ばれ、世界中に点在する無数のPCを経由して最終的な目的地にアクセスされる。
その結果、こちらのIPアドレスがサーバーに残らないのだ。追跡も不可能だ。
僕はそれまでTORの存在を知らなかった。
しかしK堂のおかげで、僕はTORの存在を知った。
そしてそれ以来、他人のwifiを使ってアクセスすることはなくなり、AviraからTORサーバー経由でネットアクセスするようになった。
k堂おそるべし。
彼は、大麻を栽培して、まだ一般には広まっていないTORを使って、掲示板に書き込み、TOR上の完全匿名メールを使い、顧客とやり取りして完全犯罪のネット薬物通信販売を始めていた。
シルクロード

ただこのTORを使った薬物売買のシステム、k堂がオリジナルというわけではない。シルクロードというパイオニアがすでにあって、そのサイトは、シャブもヘロインもコカインも、そしてもちろん大麻も、ありとあらゆる薬物、さらになんと銃器やクレジットカード情報などが陳列されており、すさまじく素敵な品揃えであった。
しかもそれらは全てビットコインで購入できた。
今ではもちろんビットコインが匿名ではないと知れ渡っている。
警察もビットコインを追跡する手段を確立しつつあるが、当時の日本政府はビットコインって何?というような認識で、全く関心を寄せていなかったこともあり、ほぼ匿名で商品を購入できた。

そういう先達があるにはあったが、それにしてもk堂のアングラITリテラシーと企画力はすばらしい。
海外で始まったばかりの薬物ネット通販を応用して、実戦に投入したというところが凄いのである。
違法薬物のマーケティング
しかも、そのマーケティングがユニークであった。
いまではツイッター上で一般的になった無料配布のシステムを初めて薬物に採用したのは彼ではないだろうか?
ネット上で薬物を販売するときには、掲示板に掲載し、連絡のあった顧客とコミュニケーションを深め、最終的に大麻を1グラム5000円で売ります。そのような合意を形成する。
そのあと、買い手は銀行にお金を振り込む。
入金が確認できてから売り手が大麻を発送する。
こういう流れだ。
先にネタを送ることはなぜかあり得ない。
違法な薬物の取引ではまず顧客が金を送る。
そのあとにブツが送られるのだ。
これがこの業界の商習慣だった。
これは今でも変わらないだろう。
さて、考えてみてほしい。
こんなやり方、取引詐欺が横行するに違いないのだ。
金を送った。
物が来ない
くそネタがきた。
消費者センターにいうわけにもいかない。
ましてや、詐欺だと警察に被害届を出すわけにもいかない。
こんな理不尽な取引は他にあるまい。
詐欺が国家権力の片棒を担いでいるという、おかしなことになってしまっている。
というわけで薬物のネット通販の信用は地に落ちていた。
でも、そこは日本人の民度の高さ。
外国のことは知らないが、日本国内で活動している、かなりの違法薬物通販業者は、ちゃんとネタを送っていたようだ。
とはいえ、相当数の業者は詐欺、よしんばちゃんと送る業者出会ったとしても、糞ネタを平気で送って偉そうにしていたところが多かったようである。
k堂の登場
彼はこのような状況の中どうやったら消費者に信用されるかを考えた。
彼がひねり出したのはサンプル配布である。
k堂といえば無料サンプルと呼ばれるくらいに、そのマーケティング手法は功を奏した。
2ちゃんねる薬板を自分の広告塔として、無料で大麻を配ります。
そう告知して希望者を募る。
そしてその文章には、配布する大麻のブランドやレビュー、そして医療大麻として使われる方に向けての効能などが詳しく記述されていた。
しかも知性と教養を感じさせる文面で。
ユーザーからするとなんのリスクもなくタダで大麻がもらえるのだ。
これまで詐欺られたり、クソネタに落胆していた買い手は手放しで喜んでメールしたものだろう。
k堂はその中から特に安全そうで、リピーター客になりそうな優良ユーザーを選別して、サンプルを発送したようだ。
ネットの大麻ユーザー達は、そのサンプルを実際に手に取って味わってみて、kのところには確かにまともな大麻があると分かるのである。
サンプルを受け取ったユーザーはその後、k堂に安心して代金を支払い、良質な大麻を手にすることになる。
その大麻に満足した彼らは、その後も定期的に利用してくれる、優良顧客となるのだ。
このようなマーケティング手法を採ることによって、k堂は2ちゃんねるのドラッグディーラーの中で異彩を放っていた。
共同経営者募集
さらにk堂は新しいシステムを考案した。
それは営業と経理部門、栽培と配送部門。これらを完全に分けるという方法だ。
あるとき薬板にk堂はこう書きこんでいた。
k堂の顧客に大麻を提供してくれる、大麻栽培者を募集していますと。
僕はすぐに彼に送る文を作った。
こんな内容だ。
自分の栽培する大麻には自信があり、しかも継続的に大麻を量産できる。品種の出所も確かである。
文章には心を込めた。彼と仕事をしたいと真剣に思ったからだ。
その思いが通じて彼からすぐに返信が来た。
早速サンプルを提供して欲しいとのことだ。
僕は彼にすぐサンプルを発送した。
数日後、そのサンプルが届いた旨のメールが届いた。
そっけないビジネスライクなメールにはいささか拍子抜けしたが、ネタには満足してくれたようだ。
その証拠に早速僕達の大麻がk堂によって無料配布されることになった。
さらにk堂は懇切丁寧に無料配布の方法を案内してくれる。
発送の方法や細かい梱包のやり方に至るまで、一切の妥協はない。
梱包に必要な資材と道具一式、ご丁寧に全て揃えて発送してくれた。
さしずめ大麻通販開業スターターキットだ。
様々に資材が段ボールケースにいっぱいに詰め込まれて僕の私設私書箱に送られれてきた。
内容を詳しくここで書くわけにはいかないが、微に入り細に入り、至る所に気配りの効いた素晴らしいキットだ。
この方法で発送されたら、まさか大麻が中に入ってるとは気付くまい。
そう確信した。
無料サンプル配布
ついに無料配布する顧客のリストが彼のTOR専用メールから送られてきた。
かねてより取り決めていた手筈で、大麻のサンプルを数十件発送した。
かなりの数であるが、一件あたりの発送グラム数は微々たるものなので大して痛くはない。
それより、この結果どうなるのかその先行きが楽しみだ。
大麻の品質に自信を持っていたが、やはりエンドユーザーから素直な感想を聞いたことのない僕達はとてもドキドキしてその結果を待っていた。発送を終えて1週間ほど過ぎた後、k堂から待ちに待った返事が来た。今回のサンプルについてのユーザーレビューと今後の共同経営方針について書かれたとても重要なメールだ。
さて、まずは僕達のサンプルの、品質に対しての評価だ。
ユーザー3人ほどの詳しいレビューが載っていた。
ユーザー、一人一人の感想が詳細に書き込まれていた。
ネットの向こう岸で僕達の大麻を吸って楽しんでいるユーザーによって記されたレビューは僕にとってとても新鮮だった。
今まで経験した事のない強力なキマリだとか、
効力が長持ちしてありがたいだとか、
樹脂のノリがよくて見た目、味ともに素晴らしいだとか、
食欲が増進されて何を食べても美味しくいただけるだとか、
新たなインスピレーションが湧いてくる創作活動に最適だ。
販売されたら必ず買いたい。
このように概ね好意的な内容の感想ばかり。
読んでいて幸せな気持ちになれた。
直接ユーザーから僕達の大麻の感想を聞くことなんてなかったので、僕は弟をわざわざ呼びに行って、彼にもこのメールをみてもらった。彼も心底嬉しかったようで、
「やっぱり俺らの大麻はええねんで」
そうしきりにつぶやいていた。
医療大麻
さらに、こんな内容のレビューがあった。
私は長年神経痛を患っている者です。
病院で処方される薬ではもはや痛みが緩和されません。
しかも長年の服用で胃腸の調子を崩してしまいました。
そんな時に大麻と出会いその助けを借りている者です。
今回のサンプルはとても素晴らしいです。
患部の緊張が自然と緩み、とても心地良いです。
痛みにやわらかく作用し、ゆったりと寛ぐことができました。
久しぶりに痛みを忘れて熟睡することができました。
この大麻を商品として販売して欲しいです。
確かそのような内容だったと思う。
こんな風に大麻と付き合っているユーザーがいるのか。
これは僕が医療大麻を意識した初めて経験であった。
この感想を受け取って、とても不思議な気分になった。
もちろん悪くない気持ちだ。
これまで金儲けのために御法度の禁制品を密造している、そういう後ろめたさばかりが心の中に先行していたのだが、このような方の役に立つこともあるんだなと、とても救われた気持ちになったのである。
もちろん弟も乗り気で、感心することしきりであった。
k堂をメインにやって行きたい。
彼はそう話していた。
一つだけ懸念材料があった。
それは代金の回収だ。
大麻売上金の回収
違法薬物商取引の基本は手押しと呼ばれる対面販売が基本だが、
今回は特殊だ。客はk堂に先に代金を支払う。
この代金がミソだ。
全てにおいて抜かりのないk堂が、この肝心な最後の仕上げの部分で現金振り込みなどという陳腐な手段で茶を濁すわけはない。
ここでも彼らしい斬新な方法が採用されていた。
Amazonギフト券のような金券による取引だ。
金券によるお金のやり取りは、少し前に話題になっていたのでご存知の方も多いと思う。
銀行振込による振り込め詐欺対策がかなり厳しくなって、詐欺グループが次に考えたのは、金券を騙し取るやり方だ。
電話でお年寄りを誘導して、コンビニで金券を買わせる。
金券の番号を電話で聞き出しお金をだまし取る。
こういうやり方だ。
しかし、その事件が発生するかなり前から、すでにk堂は大麻の代金を金券で回収していた。
もしかしたら顧客の中に振り込め詐欺の幹部が紛れ込んでいて、k堂の金券システムを模倣したのかもしれない。
とにかく、k堂はギフト券の番号をメールで受け取り、大麻を発送していた。
5000円の大麻2gの注文なら1万円のギフトカードを顧客にコンビニで買ってきてもらい、k堂にその番号をメールする。
番号であるから、すぐに入金が確認できたも同然だ。
そうして注文をまとめた後、僕達に発注のメールが入り、僕達は指示された住所に大麻を送る。
その後、k堂はなんらかの方法で金券を現金に換金して、僕達の私設私書箱に現金を送ってくる。
これで取引完了だ。
言ってしまえば、コンビニで大麻が帰るのだ。
誰にでも簡単にネットで大麻を入手できるメリットがある。
だが、この方法だと、僕達は見ず知らずのk堂を信頼しなくては商売が成り立たない。
何故ならば、金券の換金に時間がかかるのだ。
k堂が説明するところによると、僕達が商品を発送してから、客からの代金を換金して僕達に送るまで、2週間ほど待って欲しいということなのだ。
僕達兄弟はとても悩んだ。
2週間の間に相当数の大麻を発送することになるからだ。
k堂の予想によると、僕達の大麻は好評なので、2週間の間に数百グラムの出荷見込みがあるという。
その間僕達は、kから間違いなく現金が届くことを期待しつつ、毎日大麻を発送しなければならない。
k堂はどこのどいつだか僕達には一切わからない。
「なんとか一部でも先に負担して支払ってくれないか?」
そのように持ちかけてみたのだが、k堂は頑として受け入れなかった。
ただその断り方は高圧的なものではなく、こちらに最大限理解を求める言い方でとても好感が持てた。
また、その間の交渉メールのやり取りは、違法薬物のプッシャ同士のやり取りなんてものではなく、ごく一般の商取引によくあるような紳士的な交渉で信頼がおけた。
僕達の立場を理解して、こちらの気持ちに最大限配慮した文面だった。
すでにk堂と取引する。できればこれをメインに据えたい。
そう心に決めていた僕達は腹を括って全てk堂のやり方に従うことにした。
k堂にそう伝えると、彼はそれ以降毎日詳細な日報と発送指示書を送ってきた。
そうやってk堂の一部となった僕達は、その日から何年も、盆も正月もなく、毎日毎日、日本全国の大麻を欲しがっている顧客にモノを送りつづけた。